2022-02-08
[コラム]日本史小話
濱口先生(関西学院大学大学院文学研究科/日本史専攻)*執筆当時
乱取りの世界
こんにちは。日本史担当の濱口です。
前回は略奪される側であった村人たちの知恵について話しました。今回は、そんなたくましい村民に対して略奪を行う者たちの姿を伝えていきたいと思います。
合戦が起きると、兵士たちは勝手に百姓の家へ押し入って家財道具を奪ったり、人や家畜を略奪したりしていました。このことを歴史用語で「乱取り」といいます。もちろん、兵士たちが乱取りに熱中すると、収拾がつかなくなるため、勝手に乱取りをすることは禁止されていました。しかし、作戦や規律を乱さない限り、敵地での略奪行為などは許されていました。身分の低い足軽たちにとって、戦争は乱取りこそが醍醐味でした。兵士たちは戦争に嫌々向かわされるようなイメージを持ちがちですが、むしろ戦争に行くことで戦場の村々から様々な物を略奪し、身なりが良くなるので進んで戦場に向かう者もいたと思われます。
話は変わりますが、戦国期において春夏秋冬のどの時季に死亡率が高いかご存じでしょうか。厳しい寒さが発生する冬でしょうか。正解は、早春から初夏にかけての時季です。このタイミングは、一年の中で一番食料が欠乏する時季だからです。逆に言えば、食料が豊富な初秋から冬は一番命を落とす可能性が低かったのです。このパターンは中世を通して見られます。この話と乱取りは、大きなつながりがあります。食料の欠乏を防ぐためには、他人の食料を奪ったり、奪ったものを売ったりしたら良いのです。そのため、略奪行為は春に備えて秋冬に起こりやすいといえます。略奪行為が発生する根本的な要因は戦争です。つまり、戦争も秋冬に起こりやすいともいえます。略奪をする側、される側、両者とも冬が勝負どころでした。
今回は、略奪する側のお話しをしました。前回と今回の話の基となったのは、藤木久志氏の著書『雑兵たちの戦場』や『飢餓と戦争の戦国を行く』です。藤木氏は、戦場を「生命維持装置」と名付けました。今回の話を読まれた方は理解できると思います。略奪する人たちは、生きるために戦場で食料や家畜、人などを奪うからです。なかなか学校では習う機会がない、リアルな戦場の様子がわかりますので、お時間があれば先に挙げた藤木氏の著書を読んでいただければ幸いです。
最後に、この日本史小話は、残り2回となります。皆さんに少しでも面白いと思っていただけるように、最後まで頑張っていきます。次回の更新をお待ちください。